萬乗醸造 ― 革新と伝統が交差する「醸し人九平次」の世界
酒蔵の魅力と実績
萬乗醸造(ばんじょうじょうぞう)は、愛知県名古屋市緑区にある酒蔵で、海外の三ツ星レストランでも採用されるプレミアム日本酒「醸し人九平次」で知られます。フランスをはじめとした海外展開の先駆者であり、テロワール(風土)と真摯に向き合う日本酒づくりを実践。自社で酒米の栽培にも取り組み、日本酒を「世界に通用する食中酒」として位置づけた酒造りは、国内外から高く評価されています。
歴史と立地の特徴
萬乗醸造は1647年創業。名古屋の南部、緑区の閑静な住宅地に位置します。戦後は一時期地酒中心の地域密着型の造りをしていましたが、1997年に十五代目久野九平治氏が「醸し人九平次」ブランドを立ち上げ、大胆な転換を図ります。
立地的には、愛知県は温暖な気候と良質な水に恵まれており、また交通の便がよいため、都市型酒蔵として全国・海外への展開にも有利な拠点となっています。
独自の酒造りへのこだわり
- 設備と技術:最新の温度管理システムや衛生管理を導入。すべての工程において繊細な温度・湿度コントロールがなされており、ブレのない高品質な仕上がりを可能にしています。
- 哲学:「SAKEからSAKÉへ」。フランスワインの概念に近づくため、原料である米の育成から酒造りを行う「ドメーヌ型日本酒」の哲学を追求。
- 酒米栽培:自社で山田錦や雄町を育てる他、フランス・ブルゴーニュでも米作りを行うなど、世界視点での“土壌と味の相関”を研究。
プレミアム日本酒の展開(3銘柄)
1. 醸し人九平次 純米大吟醸 山田錦 Épisode Ⅱ
- 受賞歴:Kura Master プラチナ賞(複数年)
- 香り・味わい:ライチや白桃を思わせる華やかな香り。精緻な酸味と旨味が拮抗し、極めてエレガントな味わい。
- 余韻:しっとりと伸びやかなフィニッシュで、ワインのようなバランス感。
ペアリング提案:
愛知・三河湾産の車海老のカルパッチョ。レモンオイルと塩だけのシンプルな仕立てが酒のミネラル感を際立たせます。
2. 醸し人九平次 別誂(べつあつらえ) 純米大吟醸
- 受賞歴:SAKETIMEプレミアム日本酒ランキング上位常連
- 香り・味わい:穏やかな洋梨の香り。口当たりはシルキーで、奥行きのある米の旨味が広がる。
- 余韻:ほのかな甘みと酸味が絶妙な余韻を演出。
ペアリング提案:
名古屋コーチンの網焼き 胡椒とオリーブオイル。地元の地鶏の旨味と酒の複雑味が見事に調和します。
3. 醸し人九平次 黒田庄に生まれて、兵庫県黒田庄産山田錦100%
- 受賞歴:フランス・パリの三ツ星レストランで採用
- 香り・味わい:ミネラル感が際立ち、まるでシャブリを思わせる硬質な口当たり。
- 余韻:石灰質のようなクリーンなフィニッシュが長く続く。
ペアリング提案:
あいち鴨のロースト 柚子胡椒ソース。鴨脂の甘さと、酒の酸が絶妙に融合。
レギュラー日本酒の展開(5銘柄)
1. 醸し人九平次 純米大吟醸 赤磐雄町 2023
- 受賞歴:2024年 Kura Master 金賞
- 香り・味わい:完熟したバナナ、メロンの香り。赤磐雄町らしいふくらみのある米の旨味。
- 余韻:酸味と旨味が残る、滋味深い後味。
ペアリング提案:
岡崎八丁味噌を使った田楽。味噌のコクと酒のボリューム感が絶妙。
2. 醸し人九平次 Human 純米大吟醸
- 特徴:生命感をテーマにした軽やかな食中酒
- 香り・味わい:青リンゴ系の爽やかな香り、軽快でジューシー。
- 余韻:短めながらもクリーン。
ペアリング提案:
名古屋名物・天むす。軽快さと米の親和性が楽しめる。
3. 醸し人九平次 Le K(ル・カー)
- 特徴:フランス・ブルゴーニュの米で仕込んだ日本酒
- 香り・味わい:穏やかでヨーロッパ的な風味。酸と旨味の融合が魅力。
- 余韻:さらっとした飲み口で、清涼感のある後味。
ペアリング提案:
フロマージュ・ド・テット(豚のゼリー寄せ)。ブルゴーニュ文化とのコラボ感が光る。
4. 醸し人九平次 SAUVAGE(ソヴァージュ)
- 特徴:自然栽培米を使用したワイルドな酒
- 香り・味わい:ハーブや青草のような個性的な香り。
- 余韻:若干の苦味をともなうスモーキーな後味。
ペアリング提案:
山菜の天ぷら(特にタラの芽、こごみ)で、酒の野性味を引き出す。
5. 醸し人九平次 火と月の間に
- 特徴:比較的入手しやすく、日常使いに適した食中酒
- 香り・味わい:ドライで切れのある仕上がり。白胡椒のようなスパイシーな香り。
- 余韻:すっきり、さらりと消えていく。
ペアリング提案:
味噌カツサンド。味噌の甘味と脂を酒がシャープに流してくれる。
使用酒米の種類・味の傾向
- 主な酒米:山田錦(兵庫県黒田庄・特A地区)、雄町(赤磐産)、自社フランス栽培米
- 味の傾向:全体的に「酸」を重視した設計で、洋食にも合う立体的な味わい。酒米の個性をテロワールとして表現しようとする意識が強い。
仕込み水・酵母などの特徴
- 水:名古屋市の天然水(中硬水)
- 酵母:自社培養酵母を含む多様な酵母を使い分け。香りの高さと酸のバランスに重点。
地元農家・地域との連携
- 岡山・赤磐、兵庫・黒田庄の酒米農家と密に連携。農薬・肥料の種類まで指定し、顔の見える関係を重視。
- 愛知県内でも若手農家とのコラボによる酒米栽培を推進。
地元との連携・イベント事例
- 「九平次を味わう会(名古屋・栄)」や「フレンチ×九平次」のコラボディナー(ミッドランドスクエア)など不定期で開催。
- フランス大使館主催の文化イベントにも度々登場。
飲食店や施設とのコラボ
- 東京・京都・パリなど、ミシュラン星付きのレストランで採用。
- 2023年秋:「食とSAKÉの芸術祭 in 名古屋」にて、地元シェフと九平次ペアリングコースを提供。
酒蔵の風景と訪問情報
見学・直売所の有無
- 一般公開なし(蔵見学は不可)
- 直売所はなし。購入は特約店またはオンライン限定。
建物・景観
- 酒蔵は住宅地の中にあり、静かで落ち着いた佇まい。和モダンの本社事務所が印象的。
アクセス情報
- 住所:愛知県名古屋市緑区大高町西門田41
- 最寄駅:JR東海道本線「大高駅」より徒歩約12分
- 車利用:名古屋南ICから約15分
- 空港から:中部国際空港セントレアより車で約40分
まとめ
萬乗醸造は、単なる「美味しい日本酒」を超えて、「世界基準の食文化との融合」を体現する酒蔵です。テロワールの探究、フランスでの酒米栽培、日本の伝統を昇華させたエレガンスある酒造り。そのすべてが「醸し人九平次」の名のもとに結実しています。
